2012-10-22

相似の導入のあれこれ8. てなぐさみはどうするか

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と、いろいろ見てみた上で、「う~ん、いいのがないなあ、どうしたものか」と思って、
「ぼくのかんがえた相似の導入」は比例派に近い、変換派も折衷したもの。
多分中学数学全体を見渡せば、どっかで循環論法になっているんだろうが、
それを気にしすぎるのはやめて、
ここまで学習したものは既知のものとして最大限活用することにする。

特に三平方の定理を先に入れる。自分の中学数学の授業では、
  •  単元として中2の一次関数の変化の割合と中3の三平方の定理を大きな柱と考える
  • 6の割合や単位量当たりの大きさに始まり、中3の相似でとりあえず終わる、 中学数学全体を貫いて繰り返し現れる比例の運用を、もう一つの大きな柱と考える。 
  •  どの単元でも最後にはこれらに話を収束させ、生徒に常に意識させる
というスタイルで行なっている
(本当はこれらに加えて数え上げ数学が、
さらにもう一つの柱としてあるが、今の話には関係ない)。
さらに式の展開のところでも再証明する。
そして、「三平方の定理を運用するために二次式の扱いが必要」
と動機付けをして平方根・二次方程式に入り、
二次式の扱いをマスターしたところで即、三平方の定理の運用に入る。

三角形・正方形の面積は小学校以来何度も扱っているのだから、
面積測度とか言い出さなくても中学生は面積の話は当然と受け入れている。
ユークリッド1巻でもその前提で、三平方の定理(1巻定理1-47,1-48)が、
比例(5巻)、相似(6巻)のはるか前に証明される。
まあそれでも平方根をまともにやってない段階で三平方の定理、
てのはちょっとやり過ぎかもとは思っているが、
運用させるのではなく中3でやる最重要事項の予告編のお話として、
という程度なら、無理があるとはあまり思わない。

ひとつ問題なのは、規約ピタゴラス数三角形(3:4:5とか5:12:13とか)や、
有名角三角形(1:1:√22:1:√3)について、
辺の比例による理解がすぐにはできないこと。
そこで、これらの直角三角形については、辺が比例していることを、
三平方の定理を用いた実計算で実感させてから、辺の比例を用いた運用訓練をする。
これは相似への動機づけでもあり、特に下の補題1の証明の予告編でもある。
てか下の補題1の証明は三平方の定理のとこでやってもよかったなあ。

順番はともかく、要するに相似に入る段階で生徒は、
三平方の定理の運用経験があり、
直角三角形の辺の比例についても理解はおぼろげながら経験しており、
また比例・一次関数の変化の割合とその座標平面での表現も、
うまく運用できるかどうかはともかく、
1年で比例やった時からずっと耳にタコが出来るほど聞いているので、
強く意識している・・・はず。

三平方の定理を随分先に持ってくるのは、もともとは次のようなわけである。
3のカリキュラムでは大抵、三平方の定理は一番最後の方に来るが、
高校で縦横無尽に使う関係で、高校入試でも三平方の定理の運用は必出。
その練習を中3の最後にならないと始められないというのはあまりに遅い
(てか自分が中3の時、三平方の定理はもっと早く慣れたかったと思った)ので、
三平方の定理だけはカリキュラム無視で、
できるだけ早くに出して慣れさせようということ。
結果として円もすっきりしたり、
展開・因数分解のところでピタゴラス数の話がやれたりと、
副産物がけっこうある。で、相似にもどうやら使えそうだ。

まず三角形、しかもまずは直角三角形限定で話を始めるのが、
ヒルベルトの比例理論からのヒント。
そして座標平面を使ってもいいのだというのは芳沢「新体系」からのヒント。
公理系とモデルの区別とか中学段階では不要だし、
1で比例を座標平面でやったのだから、使えるものはなんでも使えばいい。

三角形の相似の定義はヒルベルトの

二つの三角形の対応する角がそれぞれ等しいとき、
この二つの三角形は相似であるという。

を採用。これは三角形限定ながら「サイズが違う同じ形」概念と相性がいい。
ただし曲線図形・立体図形にはそのままでは使えないから、
あとで立体図形が出てきたところで拡張する。
「相似なら三角相等」・「三角相等なら相似」は定義により明らか。
もちろん三角相等と二角相等は同値。

まず、
補題12つの直角三角形が相似なら三辺比相等」を座標平面で証明する。
証明)
2つの相似な直角三角形1,2の、直角を挟む二辺の長さを、
それぞれx1,y1およびx2,y2とする。
ただしx1x2に、y1y2にそれぞれ対応する辺の長さである。
以後簡単のため長さx1の辺を辺x1などと呼ぶことにする。

三角形1で辺x1と斜辺とのなす頂点を原点Oにとり、
Oから辺x1の方向にx軸を取る。
また三角形1の直角の頂点をA1O, A1と異なる頂点をB1とする。
三角形2を移動して(必要なら鏡影して)Oに対応する点をOと重ね、
x2x軸の正の側に重ね、三角形2の直角の頂点をA2
O, A2と異なる頂点をB2とする
(つまりOを中心とした相似の位置に置く)。


仮定により∠A1OB1=A2OB2だから、O,B1,B2は同一直線上にあるので、
直線OB1と直線OB2の傾きは等しいからy1/x1= y2/x2
故にy1/y2=x1/x2 (1)この比の値をk>0とする。
三平方の定理により
OB1/x1=√(x12+y12)/x1=√(k2x22+k2y22)/kx2=√(x22+y22)/x2=OB2/x2
これと(1)を併せOB1/OB2=x1/x2= y1/y2となり三辺比相等。(証明終)

補題22つの直角三角形が三辺比相等なら相似」
証明)
補題1と同様の配置・ノーテーションにおいて、
仮定によりx1/x2= y1/y2だからy1/x1= y2/x2なので、
直線OB1と直線OB2の傾きは等しい。
故にO,B1,B2は同一直線上にあるので∠A1OB1=A2OB2
また∠OA1B1=OA2B2=Rだから、
三角形1と三角形2は二角相等なので相似。(証明終)


以上により直角三角形について、相似と三辺比相等の同値性が示された。
これを元に一般三角形について
「相似なら三辺比相等」「三辺比相等なら相似」を示す。


定理1「相似なら三辺比相等」
証明)
三角形13つの角のうち最大の角の頂点をA1とし、
他の2点をB1,C1とする。
またA1,B1,C1に対する辺の長さをそれぞれa1,b1,c1とする。
補題1と同様に簡単のため、辺a1などと呼ぶ。
A1,B1,C1, a1,b1,c1に対応する三角形2の頂点・辺を、
それぞれA2,B2,C2, a2,b2,c2とする。

A1からa1へ下ろした垂線の足をH1
垂線の長さをh1B1H1=d1とする。
同様にA2からa2へ下ろした垂線の足をH2
垂線の長さをh2B2H2=d2とする。

A1B1H1と△A2B2H2において仮定により∠A1B1H1=A2B2H2
また∠A1H1B1=A2H2B2=Rだから、
2つの直角三角形において二角相等なので
A1B1H1と△A2B2H2は相似。
故に相似比をkとすれば補題1によりh1/h2=c1/c2=d1/d2=k (1)
同様にして△A1C1H1と△A2C2H2は相似で、
b1/b2=(a1-d1)/(a2-d2)=h1/h2=k (2)
(1)(2)より(a1-d1)/(a2-d2)=d1/d2だから、d1(a2-d2)=d2(a1-d1)
これよりa1/a2=d1/d2=kだから(1)(2)よりa1/a2=b1/b2=c1/c2となり三辺比相等。(証明終)


定理2「三辺比相等なら相似」
証明)
定理1と同様のノーテーションにおいて、
仮定によりa1/a2=b1/b2=c1/c2=k
三平方の定理によりh12=c12-d12=b12-(a1-d1)2、これよりd1=[c12-b12 +a12]/(2a1)
(本当はc12-b12 +a12>0も示すべきだが略。
気にするなら三角不等式から証明すればいい)。
同様にh22=c22-d22=b22-(a2-d2)2なので、
d1=k[c22-b22 +a22]/(2a2) =kd2を得るから、d1/d2=k
これよりh1=√(c12-d12)=k√(c22-d22)=kh2となるので、h1/h2=k
したがって、2つの直角三角形△A1B1H1と△A2B2H2において、
三辺比相等が成り立つから、補題2と相似の定義により∠A1B1H1=A2B2H2
同様に2つの直角三角形△A1C1H1と△A2C2H2において、
A1C1H1=A2C2H2
故に三角形1と三角形2において二角相等が成り立つから相似。(証明終)


さらに相似の定義と定理1から「相似なら二辺比夾角相等」は明らか。

定理3「二辺比夾角相等なら相似」
証明)
定理1と同様のノーテーションにおいて
(ただし∠A1が最大の角とは限らないので、
H1,B1,C1の位置関係に関する場合分けが本当は必要だがここでは略)、
B1=B2a1/a2=c1/c2=kとする。
2つの直角三角形△A1B1H1と△A2B2H2において、
A1H1B1=A2H2B2=Rだから、2角相等となるので、
補題1によりd1/d2=h1/h2=k

三平方の定理により
b12=h12+(a1-d1)2=k2[h22+(a2-d2)2]=k2b22
b1>0, b2>0, k>0だからb1=kb2
よってb1/b2=kとなり三角形1と三角形2において三辺比相等が成り立つ。
したがって定理2により三角形1と三角形2は相似。(証明終)


これで三角形の相似3条件と、三角形の相似の定義の同値性が示されたので、
平面の多角形については三角形の組合せで良い。
ここから平面の直線図形で、相似比の運用訓練に入る。
ひと通り訓練を積んだあと、立体図形・曲線図形への拡張として、
相似の位置を平行線と比の話とともに入れる。
三角形の相似条件が示されていて、運用経験もあれば、
そう長々やらなくてもいいはず。

導入の証明で三平方の定理を大量に運用するので、
三平方の定理や無理式の運用に不慣れな中学生は、面食らうだろう。
てかやってみたら生徒は「三平方の定理ってよく使うんですねぇ」と驚いていた。
どうせ高校でたくさんやることなのだから、高校の予告編的に、
無理式の運用とかやって見せるという意図も一応入っているのだが、
それで「高度なバランス感覚」とやらが達成されているかというと微妙で、
自分でもこれがベストと思っているわけでもない。
でもまあ、「導入では比例派、ひと通り訓練を積んでから変換派への拡張」
という手順自体は悪くはないのではないかと思う。
とりあえずこれでやってみるか。