ヒルベルト 幾何学基礎論 |
ヒルベルト「幾何学基礎論」では相似自体の定義は16節で、
二つの三角形の相対応する角がそれぞれ合同なとき、
この三角形は相似であるという。
つまり三角形の三角相等が三角形の相似の定義そのものになっている。
三角形限定で言えば、「同じ形」概念と三角相等のリンクは直感的に分かりやすい。
だからここの定義だけ取ると、比例派とも変換派とも言い難い様に見える。
が、実はその前の13節から延々と比例の理論を、
- 直角三角形と平行線の性質を元にしたパスカルの定理
- パスカルの定理を元にした線分の算術と背景の体
- 体の比例の理論
という流れで議論し、その比例の理論の一つのアプリケーションとして、
16節で相似にちょこっと言及しているだけだ。
その言及が、三角形限定での「同じ形」概念とたまたま相性がいいだけの、
比例派と言っていいと思う。でもこの定義は惹かれる。
「相似なら三角相等」「三角相等なら相似」は定義により明らか。
「相似なら三辺比相等」が、比例の理論のアプリケーションとして、
直後の定理41で示される。その系として「相似なら二辺比夾角相等」は明らか。
その後は面積測度についての議論に入り、
アルキメデスの公理が関係する興味深い議論のあとで証明される。
ここまでやってくれればあとの残り
「三辺比相等なら相似」「二辺比夾角相等なら相似」は、
ユークリッドと同様でもなんでも、如何様にでも証明できるだろう。
ユークリッドの時代は、数や比の計算・代数が幾何学ベースなので、
ユークリッドにおいて相似と比例の理論には大きな関心が払われた。、
一方、既に代数学が高度に発達していたヒルベルトの時代、
「基礎論」の興味はユークリッド幾何学の構築がどのような基盤でなされるか示し、
さらにそれをアレンジして、どのような非ユークリッド的幾何学が、
どのような体上で可能なのか、展望を示すことにある。
この文脈の中では、ほぼユークリッド幾何学限定の話である相似は、
背景にある体の代数学への関心のついでに出るだけだ。
だからヒルベルトも相似はあまり詳細に議論していないし、
三角形以外の直線図形の相似についても特に言及していない。
まああとは、ユークリッド6巻と同様にすればいいだろう。
「背景にある体が垣間見えるが、
中学数学の段階ではそれがはっきりと見えてこない」辺りが、
ハーツホーン「幾何学」は、ユークリッドの行なっている議論を、
ヒルベルト的観点から見直す解説書なので、
相似の定義はユークリッドと同じだから、
「相似なら三角相等・三辺比相等・二辺比夾角相等」は、
相似の定義により明らか。
ヒルベルトと同様の比例の理論の準備が、相似を扱う前に行われていて、
「三角相等なら相似」「三辺比相等なら相似」「二辺比夾角相等なら相似」は
この比例の理論を用いて証明される。
ユークリッドとヒルベルトの橋渡しとしてこの本は助かる。
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