公理系の話も少しするが、公理系自体に興味が有るわけではなく、
ユークリッドやヒルベルトより柔らかめの本。
序文でも「初等幾何の通俗書としてまた幾何教授の参考書として書いた」
と言っている。
明確に書いてないが中学初等幾何程度の知識ははじめから前提で、
平行線の同位角・錯角といった話は暗黙の前提、
また三角形の合同条件は二辺夾角相等・二角夾辺相等・三辺相等・
直角三角形の斜辺他一辺相等を、当然知ってるでしょ的に触れているだけ。
ちょっと話はそれるが、この本のスタンスを述べている、
15節「幾何教授について」はいい感じ。
まずポアンカレの有名な科学論「科学と方法」の、
岩波文庫版なら137~138ページの印象的な一節が引かれ、さらに
「教育は人を相手にしている。人は初めから完全な演繹推理を行うものではない。
演繹推理はむしろ後からつけた理屈であって実際は直観が先である。
そうすれば教えるときはやはり考えついた筋道
すなわち人の思想の流れに従うことが
洞察力の養成または数理思想の開発を促す一方法ではないでしょうか。
(中略)
生徒が時々『どうしてそんなことに気がついたのですか』と問うことがある。
この質問に応ずるような教授法こそ真に望ましいものではないでしょうか。」
と述べる。う~、まったくその通り。いいこと言うなあ。
なんとなく意識してはいたつもりだが、改めて肝に銘じたい。
さて相似については変換派の代表といってもいいかもしれない。
ユークリッドの比例の理論が、現代的ノーテーションでざっと紹介された後、
まず相似の位置(「相似にして相似の位置」)の定義:
平面上の定点をO、任意の1点をPとする。
OPまたはその延長上に1点P'をとり、OP:OP'=k (kは定数)なるようにするとき
PからP'へ移る変換を相似変換という。
点Pが1つの図形Fを画けばその対応点P'は他の図形F'を画く。
このときFとF'は相似にして相似の位置にあるといい、
Oを相似の中心、kを相似比という。
この定義で相似変換・相似の位置・相似比が導入され、相似(「相似形」)は
2つの図形を相似にして相似の位置に置きうるときは
この2つの図形は相似形であるという。
で定義される。直後に円の相似について言及している辺り、
曲線図形・立体図形でもOKの、一般性が高い定義だ。
なおk=1(合同)のときはあとで補足があって、相似の中心は無限遠点。
まず変換派にとっての基本定理といっていい
「右図でℓ ∥m∥nとすると、AB/BC=A'B'/B'C'」
が証明される。証明はユークリッドの比例論ベースだが、
ユークリッドの命題6-2と違って三角形の面積は使わず、、
ヒルベルトでもクローズアップされているアルキメデスの公理:
「線分ABとCDが与えられた時、ABのコピーをn個加えたものが、
CDより大きくなるような自然数nが存在する。」(この表現はハーツホーンから)
があらわに用いられる(線分の代数の背景にある体の標数が0(実数とか)なら、
当たり前に見えるが、有限標数の体だと自明ではない)。
これを元にした比の定義とそれに基づく証明を、全部紹介すると冗長なので略。
さらに系としてユークリッドの命題6-2の順方向
「△ABCにおいてBCに平行な直線がAB,ACと交わる点をD,Eとすれば
AD/DB=AE/EC」を得るので、これを用いて、
定理「辺数が相等しい2つの多角形において、
一方の多角形の各角が同じ向きに他の多角形の各角に等しく
かつ対応辺の比が全て等しいときこの両多角形は相似形である」
つまり「ユークリッドの相似の定義6-1が成り立てば、相似の位置に置ける」
(必要なら図形を裏返す)
証明)2つの多角形をABCD...,
A'B'C'D'...とする。
1組の対応辺ABとA'B'を平行の位置に置くと、
仮定により∠B=∠B'で各角は同じ向きに等しいからBC∥B'C'。
以下順次繰り返して両多角形のすべての対応辺が、
互いに平行であるように置くことが出来る。
相似比k≠1のときAA'とBB'の交点が存在するからこれをSとすると、
上の系によりSB/SB'=k。またBB'とCC'の交点が存在するからこれをS'とすると、
上の系によりS'B/S'B'=k、故にSとS'は同じ点。
同様に順次繰り返して、AA', BB', CC',
DD'...は全て1点Sで交わるから、
両多角形はSを相似の中心とした相似の位置にある。
k=1(合同)の場合はSは無限遠点。(証明終)
この証明のすぐあと、
「2つの三角形の間に三辺比相等・二辺比夾角相等・二角相等の
いずれかが成り立てば相似」は、「上の証明と同様」で終わる。
なお、逆「相似ならユークリッドの定義6-1が成り立つ」は、
あからさまに証明してはいないのだが、
これはユークリッドの命題6-2の逆方向
「△ABCの辺AB,AC上にそれぞれ点D,Eをとって
AD/DB=AE/ECが成り立つようにすればDE∥BC」が演習問題だからかな。
これが証明されれば、上の相似の位置の図から、
ユークリッドの定義6-1を示すのは易しい。
多分行間読んで演習問題として解いてみということだろう。
そうしたら「相似なら三辺比相等・二辺比夾角相等・二角相等」は明らか。
まあこの本で本当に扱いたい広範なトピックの中では、
中学レベルの問題の証明を長々やるのはバランスを欠く気はする。
相似の位置と、ユークリッドの相似やヒルベルトの比例との関係が明確な、
しっかりした筋立て。ヒルベルト的厳密性という点ではそりゃ落ちるが、
そういうことを目指している立場の本じゃないし、これで十分だろう。
ただ、このままの形で素養のない中学生にいきなりやるには、
特に比の定義の部分は大分難解だし、
相似の位置からの持って行き方もかなり冗長になる。
上の定理の証明だって、中学生向けにやろうと思ったら、
かなりの量の補足を詳細に入れないと、理解は無理だろう。
上の定理の証明だって、中学生向けにやろうと思ったら、
かなりの量の補足を詳細に入れないと、理解は無理だろう。
初等幾何をそれなりに中学で学んで素養を積んだ人の中で、
さらに興味持った人が、じっくり初等幾何を味わうための本だからなぁ。
0 件のコメント :
コメントを投稿