2012-10-22

相似の導入のあれこれ3. ユークリッドの場合

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ユークリッド
原論
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ユークリッド「原論」では6冒頭。相似の定義は定義6-1

相似な直線図形とは角がそれぞれ等しく
かつ等しい角を挟む辺が比例するものである。

つまり直線図形のみについて、辺の比例が天下り的に与えられる比例派。

上の定義を元にした、三角形の相似3条件の証明の主な材料は、
  • 平行線と同位角(1命題1-29
  • 三角形の等積変形と平行線の関係(1命題1-37, 1-39 
  • 平行四辺形の対辺・対角は等しい(1巻命題1-34
  • 5で導入された比例の理論(現代的には単なる式変形) 
  • 図形の位置・向きは移すことができる(暗黙の前提)
特に平行線と三角形の等積変形の関係が、
三角形の相似条件の証明に重要な役割を果たす。

まず「相似なら三角相等・三辺比相等・二辺比夾角相等」は、
定義6-1により明らか。

逆を証明するため、まず命題6-1
高さを固定した三角形の面積は底辺に比例する」を証明(略)。
次に命題6-2
右図でDEBCならAD/DB=AE/EC
逆にAD/DB=AE/ECならDEBC
証明)
命題6-1によりAEBにおいてADE/BDE=AD/DB (1)
ADCにおいてADE/CDE=AE/EC (2)である。

DEBCなら命題1-37によりBDE=CDEだから、
ADE/BDE=ADE/CDE(1)(2)によりAD/DB=AE/EC
逆にAD/DB=AE/ECなら(1)(2)によりADE/BDE=ADE/CDEなので、
BDE=CDEだから、命題1-39によりDEBC。(証明終)

6-4「三角相等なら相似
証明)三角相等な2つの三角形を適当に移動して、
B,C,Eが一直線上にある2つの三角形ABCDCEとする。
ただしA, B, ACBD, DCE, E
それぞれ対応する等しい角である。
さらに直線BAと直線EDの交点をFとする。

DCE=Bより同位角が等しいので命題1-29によりBF∥CDだから、
命題6-2によりBC/CE=FD/DE (1)
∠CED=∠BCAより同位角が等しいので命題1-29によりAC∥FEだから、
命題6-2によりBC/CE=AB/AF (2)
(1)(2)よりFD/DE=AB/AF (3)
四角形ACDFは平行四辺形だから命題1-34により
FD=ACAF=DC。これらを(3)に代入してAC/DE=AB/DC
よってAB/AC=DC/DE
同様に適当に三角形を移動することで、他の辺の比例関係も示される。(証明終)

この命題6-4を元にして、
命題6-5 三辺比相等なら相似」と命題6-6二辺比夾角相等なら相似」は、
条件を満たす三角形1、三角形2について、
三角形1と三角相等で一つの辺が三角形2と共通な三角形3を考え、
三角形2と三角形3の合同を証明することで、
三角形1と三角形2が三角相等であることを証明する(略)。

平行線の性質を過不足なく使った、すっきりとした論理だと思う。
三角形の等積変形を基礎にしている点で、中2初等幾何からの流れにも乗せられる。
まあ面積を基盤にしている点で、測度をそもそもどう導入するのかとか、
ややこしいことを言い出したらとたんに弱くなるが、
むしろ中学数学では三角形の面積は、
当然の事項として生徒は受け入れていると思っていいから、これで十分強力。

ただ、そもそも最初の相似の定義6-1が、「同じ形」概念と乖離しているので、
ユークリッドの言う「相似」が、生徒の中でこなれないだろう。
引き続き問題演習を沢山やって、なんとなくでいいから納得させないといけない。

あと立体直線図形の相似(定義11-9)については、
平面図形の相似を元にした複雑な定義になっていて、
ユークリッド11巻後半~12巻の立体図形の相似の運用は、恐ろしく複雑。
12巻の取り尽くし法の運用に定義11-9は便利だったのかもしれないが、
今時、いきなり取り尽くし法でもないしなあ。

それでなくても3次元ユークリッド空間の体積測度については、
突っ込むとややこしい(ヒルベルト第3問題やらバナッハ・タルスキーの定理やら)し、
ユークリッドそのままの立体理論は中学レベルでは到底手が出せない。
てか11巻以降って、ホントに19世紀までの中等教育の幾何学教授で使えてたんか?
ただでさえ10巻の無理数理論で子供たちは息も絶え絶えだったろうに。

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