2011-05-15

高校数学がわからないということ

シルヴァーマン「はじめての数論」第3版を読了した。
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シルヴァーマン
はじめての数論 第3版
教えられるところの大きい本であった。
整数の生み出す豊かな世界のとっかかりだけでも、イメージできた気がするし、
その中で最後に出てきたモジュラー性パターンは、驚いてひっくり返った。


が、それ以上に、改めて数学というものの理解について思い出さされた。
そしてそれは中高生が数学がわからないポイントというものにも関連するだろう。


シルヴァーマンで特に何度も出てきているのが、
具体例を積み重ねて生の感触をつかむことである。



整数論は素因数分解以外あまり馴染みがなかったので、
平方剰余やガウス整数・ディオファントス方程式・連分数・楕円曲線
といった事柄は全くの初体験だった。
豆知識としては知っていた互除法・合同式・線形回帰数列にしたところで、、
それが何なのと思っていただけで、具体例に徹底的に触れ、
プログラミングまでして追求していったことはほとんどない。


シルヴァーマンはこれらの事柄について、沢山の具体例でパターンと感触を掴んでから、
抽象化して一般的な法則を導く、という観点で書いている。
世の数多の数学書によくある、一般的な法則を証明してから具体例を述べる、
というスタイルとは対照的である。
厳密さをある程度犠牲にしてはいるにしても、それより、具体例の積み上げからくる
生の手触り感触の圧倒的な力、というものをまざまざと見せつけられた。
厳密な議論が書かれた教科書はそれはそれで必要だが、
全くズブの初心者にはまず、実体のもつ手触りの感触、
というものが如何に肝要であるかをこれでもかと教えられた。


思い起こされるのは、小学校の頃珠算塾で大量の整数演算を経験し、
包含除と等分除の具体例を一生懸命考えて悩み、
日常の中で例えば窓と窓枠をみて掃除より相似のことを考え、
解析幾何と三角比を知ってからは座標平面での具体的な図形の運用で遊び、
積分の計算をうんうん唸りながらも楽しくやっていた日々のこと。
そういえばたくさんの具体例で感触をつかむ作業を、
たくさんたくさんやっていた。それを掴めば、
抽象化した一般的法則や公式は当然のものとして、
自然に運用できるようになっていた。
すでに知ったスマートな一般的法則を当然のように運用しているうちに、
その法則を体得してきたプロセスは忘れがちなのだろう。
このプロセスを改めて眼前に明示的に、
シルヴァーマンに思い出させてもらった気がする。


最近、数学がわからないという近所の高2を教える機会ができた。
その子は数学以外の成績は悪くはない。
特に現社や現代文、物理や化学などの、
目の前に実体のある事項の取り扱いについては関心が高いし、楽しくやってるようだ。
けれども数学については何をやっているのかさっぱりわからないという。


ちょうど高2の数学は数IIが解析幾何学、数Bがベクトルに入ったところで、
つまり中学で培った一次関数・相似・比例・三平方の定理と、
数Iの二次関数や三角比とから来る積み上げを運用して、
幾何と代数を完全に融合させる(とともに解析学を準備する)部分である。
つまり図形という具体的な実体を、自由に精密に扱う事を学ぶわけで、
本来その子の好みにマッチしている部分のはず。


しかし、図形を式で表現できる、式で図形を扱うことができる、
つまりここはこれまでの数学から飛躍して、お絵描きを始めているのだ、
という話をその子にすると、初めて聞いたという様子。
具体的な問題として、座標平面上の2点を通る直線の問題とか出してみると、
イメージが全く沸かないらしい。
さらにいろいろ話を聞くと、相似や比例の概念が殆ど無い。
いや、正確には買い物とかで比例の概念は当然普通に使っているのだが、
それと図形との関連を掴んでいない。
想像するにおそらく、除法を等分除しか知らないので、
相似比や直線の傾きに現れる単位量当たりの大きさの概念が、
まったく分からないのではないかと思う。
三平方の定理もかなり怪しく、当然三角比はお手上げである。
つまり中学・高1で習ったことと、手触りのある実体との関係について、
具体例で遊んでみた経験が殆ど無いのだ。
高校数学がわからないというのは、
シルヴァーマンを読む前の、整数の生み出す世界が全然イメージできなかった自分のように、
中学・高1で具体例にふれた経験が乏しくて、
実体的なイメージができないということなのかと思った。


シルヴァーマンに教えられたように、ここで必要なのは具体例の積み上げだと思う。
わからない問題について対症療法的にツギを当てたり、
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コックス
ガロワ理論(上)

抽象的な公式をわけもわからず運用させたりするより、基本的な具体例に触れさせ、
さも当然のことであっても確認する遊びをさせる、という課程を積む必要がある。
自分が中学・高校の頃にやった遊びを、その子に教えてあげよう。
それでイメージが掴めるようになってくれればいいな。


そんな高校生の思いを体験するためと、以前からの興味から、
自分はガロア理論の勉強を始めている。
ちょっと進めていたハーツホーンの幾何学でも結局、
有限体の理論がのちのち絡んでくるだけに、
ここでガロア理論の経験を積み上げておくことは有効だろう。
というか、上巻は去年一度読みはしたのだが、
演習問題の具体例の証明を、アウトラインを考えるまではやったものの、
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コックス
ガロワ理論(下)

時間が惜しくて、きちんと証明として書いて完結させることはやらなかった。
シルヴァーマンに改めて教えられたのは、そこをやっぱりやるべきだということ。
たしかにガロア拡大やガロア対応は概念としてはわかった気がしたが、
生の感触があるかというとそんな気がしない。
ここで感触をもっと得れば、コックスの下巻では大量の具体例と、
さらに豊富な演習問題が出てくるようなので、今から楽しみではある。


ポリアに教えられた、「教員の養成課程の中に、
適当なレベルの上で創造的仕事を行う機会を設けるべきだ。」を
改めて実感しないといけないなあ。
LINK
ポリア
数学の問題の
発見的解き方1

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